白洲信哉 SHIRASU SHINYA OFFICIAL WEBSITE


平成24年6月30日(土)  |固定リンク

 

 朝四時。新幹線の車内誌「ひととき」の取材で二見が浦にむかう。宿から歩いていくと、だんだんと明るくなってくる。さすがに人通りはすくないが情緒ある街道 編集の石田さんが「晴れましたよね」とテルテル坊主の効用をとく。しらなかったけど駄目だったらあれの首を落とすのだそうだ。こわいこわい。

 神社に着くと先客が橋の上にいっぱいだった。カメカランの阪本さんが、「三時にきたんですけどね」と笑いながらその中央にいる。4:43 うっすらみえた富士の裾野と重なった日の出。雲がかかり「完璧」じゃなかったけど、ゆらゆらと昇る日の本を感じ入る。夏至の時期、ここからあがる太陽は、夫婦岩の真ん中からあがり神秘的な情景をつくるのだ。海住の人はここから季節や潮のながれを読み取ったのであろう。ちかくには神宮におさめる塩釜がある。

 天気予報にはんして、いい日の出を満喫し内宮へ。だれもいない朝もやにしめった参道をいく。宇治橋に「滑りますから気を付けて」という看板があった。日本の名所は美的なことを無視してこんなことが多い と憤っていると、地元カメラマンの阪本さんが、「すべって転んだ人が神宮に裁判をおこして勝ったんですよ」とさらにあたまがくる事実をいう。日本はほんとうにおかしい。行政は怠慢なことがおおいが、過剰な結果責任のためどんどん萎縮する。シートベルトをおしめください。牛レバーは出しません。こんなことは上から強制することじゃないよ。どこもかしこも愛情がない。まったくばかみたいでお話しにもならない。このことについては「ひととき」にちゃんと書きますので以上。

 夕方、大阪伏見町 谷松屋戸田商店。日本橋の大店といつもの変態二人。彼らは昨晩も飲んだという。僕は形式的なことは嫌いだけど、「二度とお茶事はかなわない なんて思わせない趣向でやりますからこられませんか?」。こんな僕にしびれる一言が戸田博さんからこの春にある。先代が亡くなり喪明けに、延期になっていたお茶事が実現したのである。

 僕はわくわくしていた。初体験のどきどきに「いつまでも子どもみたいですね〜」と勲が呆れた目でみる。でも僕はそんなの関係ない。準備万端席にいると、主人がでてきて正客に挨拶にくる。僕は一緒に立ち上がり口上を聞いていたが、勲とだーさんはわらってみている。どうやらまだはやかったようだ。早くなかに入りたくてさ。つまらん問答のあと、いっときおいて茶席にはいる。なかはくらかったが天窓からのあかりにだんだん目が慣れ心地よさにつつまれていく。床には古瀬戸の輪花に蓮。では と先茶に濃茶をたてる主人。瀬戸唐津をまわしのみ。うまいうまい。

 僕はその過程をたのしんでいた。手をすすぎ茶席に入るのだが、神社参拝と作法は同じ。主人がまずすることも、茶入れや茶杓になんじゃらもんじゃら言っていたのを、僕はお坊さんが護摩を炊いたり、神主が「かいしこみかしこみ」と唱えるのをおんなじだと感じていた。ここに祈りをこめる。だから茶入れとか茶杓とか秘めたり削ったりという精神性がそなわるんだ。それまで入れ物とか匙をなんであんなにありがたがるのか僕はわからなかったが合点いった。美しかったな。 由緒とかいろんなものがまわってくると、茶碗の銘が「二見」とある。今朝、日の出を拝みに二見が浦に行ってきたんです。と主人はその偶然と縁を喜び、またその歪んだ茶碗と日の出が重なってくる。いいもんだ。さて、とここで休憩?退席してまた という。なんだ せっかくこれからというときにじらすもんだ。と内心思っていたけどここはぐっとこらえる。待合にいると鐘がなる。七つです。と桜井さん。まったくねんがいっている。さてと行こうとすると、「まだ六つ」と自重をうながす。再び清め茶席へ 今度は古瀬戸が床にじかにおかれ、巫女の演者が描かれた画にお経を重ねがきした掛け軸がかかっている。どこかでみたけど、、、と思っていると、茶会に誘われた春にみせられたマクリだった。「僕の会心の作 やってみました」と掛け軸にしたことを自画自賛する主人。ほんといい。きっとあのときから今日の物語をえがいていたんだと感謝する。

 さて、懐石がはじまる。べちゃめし なんてはじめてで甘くて美味く、汁もいいけどやっぱり足りない!と思っていたら前座の般若湯がやっとでてくる。「手がふるえて」と冗談をいいながら刺身をほうばる。城下かれい ほんといい。だんだん宴にテンポがでてきて、鮑や野菜のたき物、おかわりの飯がくる。と「これで」とつやつやした白い物体を畳の上においた。ひゃ〜 でた〜。吹原粉引!僕は血が騒ぎ、頭があつくなり汗だく みているだけで叫ぶ。僕はいつまでも握っていたかった。戦国の世からいままで何百人か?愛され触られた徳利。これはチャンピョンということもあるけど、人の息遣いや愛情がまざっている逸品だ。口がきゅっとしまった美しいプロポーションに火間の芸術。高台のちからと繊細な美。いろんなものを兼ね備えた宇宙だ。よこにいるだーさんが「いい加減にしてください」と怒っている。そうか 独占しちゃいけないと言いながら僕は離さなかった。

 これから先はこの世のことじゃなくて、いまでもスローテンポの情景が目に浮かぶ。ゆったりとしているが動きがあり、あっという間の満たされすぎた時間だった。「時間よとまれ!」そんなこと思ったことないけど、備前の火襷まで手が届かない。余裕がないのだ。すると勲が最近仕入た自慢の粉引の盃をポケットからだした。珍品だ。二つとしてないものがこの世界の醍醐味 簡単に一期一会なんていうけどふざけるな と心の叫び。主人のこころくばりとそれにこたえる裏方。呼吸がぴったり、兎に角気持ちがいい。

 そのうち段々片付けられていく。名残惜しいけどこんばんはかなり満足していた。でも、酒が入っているのに戻すなんて無礼だと勝手に理屈をつけ、勲に再び世界一の吹原をよんでラッパのみを慣行する。すると調子にのっただーさんと勲が、からになったそれをひっくり返し、高台にキスをくりかえす。きもちわる。 片付いたあと最後に一服 と余韻のうちの時間がまたすごかった。井上侯爵家の粉引に唐津。みんなで三服おかわりして堪能する。最後に「これで般若湯を」と言ったけどそれは無視された。満たされないと頭にくるのだが、満たされていればつまらない欲求になるんだ。これははじめての発見。すべては主人の手の中で僕らは満足したんだ。

 「今度は僕を東京によんでくださいね」と博さんがいう。こんなうれしいことないね。お茶事なんかできないけど、「白洲流」でおかえししたいと思う。今までで一番楽しいお茶事だった!と口を揃えていう仲間に、「またまた」と思っていたけど、かなり新しい試みだったことがわかってきた。これしかしらない僕は幸せでまた随分とご苦労をおかけしたと思う。でも、ほんとうに満ち足りた時間。お父様が亡くなられこれからいろんな意味で新たな戸田商店が誕生するのだろう。死と再生、日の出とお茶事。みんなおなんじ精神世界でひろがっているんだね。ほんとうにほんとうにみなさま ありがとうございました。


 


  戸田博さんを囲んで。


  本居宣長自画像





平成24年6月19日(火)  |固定リンク

  ポンペイレッド

 憧れのポンペイ歩いてきました。シュリーマンのミケーネ トロヤとならぶ子どものころからの夢。わくわくして歩きました。石畳で転び汗をかきグショグショになり、小学生時代の夏合宿の匂いを思い出す。半日 木陰でたたずみ水を頭からかけペストウムと二日続け遺跡をめぐる。まだ発掘(修復かもしれない)が続いていて、隣では畑仕事に従事している。廃墟は魂をゆりもどし復活したのである。僕は満足したが、なんか「もういいや」とも思う。また来たいか?と問われたら法隆寺や東大寺 春日などのほうが素直に「はい」と言うだろう。いまは充足感とちょっとだけ物足りなさとまじりあったネクロポリスだ。ナポリには行かず急ぎ足でローマ北部にのこるエトルリアの墓にも立ち寄る。戦争や自然災害と栄枯盛衰はさまざまだが、いまの日本のようにみずからがみずからを というのとは違っているように思う。一つ言えるのは、頭にくるニュースをみないからいたって健康だ。寝酒で赤いわけじゃなく、学生の発掘時代、あの炎天下の血色児童になっている。ポンペイレッドのようだ(なんて)。


  ポンペイレッド


  ヴェスヴィオ山とエトルリアの墳墓?富士山はいつまでも末永く…と手を合わせる。


 


  ヴェスヴィオ山
おまけ





平成24年6月18日(月)  |固定リンク

  ネプチューン遺跡
奥がバジリカ

 サルデーニャをでて本土にもどる。独特なる伝統を伝えている島の顛末については改めて書く予定である。かなりよかった。滝沢さん 編集の鈴木さん お世話になりました。

 休みをとって遺跡巡り。ぼくの趣味 いや人生のようなこと。ただただ歩いているだけだが、墓や廃墟 聖地のような場所でなにかをつかむことをちょっとづつ続けている。ナポリまで思ったより早く着いたので、ポンペイよりさらに南 サレルノから50Kくらいのところになる古代ギリシャ遺跡 ペストウム。ネプチューンの神殿の威容 これは想像以上だった。まっすぐ石畳がひかれた「聖なる道」 炎天下35度の猛暑に耐えられず木陰に腰をおろし茫然自失 そのうち眠たくなってくる。博物館の土器に描かれた天下を謳歌していた男たちはいないが、ぶっとい柱のおりなす陰影は往時を偲ばせてくれる。これから念願のポンペイを歩く。今日も雲一つなさそうだ。


  ネプチューンの柱


  聖なる道


 





平成24年6月11日(月)  |固定リンク

  若狭ぐじ

 週末続けて来客だった。翌日片付けしながら一夜の余韻にひたる。「不覚にもこの前寝てしまいましたから、今日はお任せください。ちゃんとしますから」と滝沢さんの予言どおりこちらが先にいく。ふたたび満寿泉 有難うございました。しめ鯖に鯛の頭、京都丸弥太さんからは立派な若狭(ぐじ)の中元?がとどく。半身を刺身にする。女将さん いつも有難うございます。しあげは伊賀のいのしし。ちょうどいい具合にあぶらがのっている。福森さん 今年の冬もよろしくです。

 翌日はそれらのあまりものを変態二人組みが整理にくる。言うまでもなく遺愛の猪口セット持参で。ああでもないこうでもない。モノをとおした勝手な会 あれがどうだの あそこのなにがよかっただの あまりに一般用語ではないので割愛する。僕は桜井さんがこのまえ手に入れた粉引きで焼酎を飲んでいた。するとみるみる雨漏りが激しくなり、つやつやしてくる。こんなみるみるとかわることはめったにない。よこのダーさんがいつものように両手で盃を握り締めながら、犬のように興奮してくる。こんな美を純粋に感じるかたがほんとうに選挙なんてでるのかな?

 今週は滝沢さんが提携したイタリー サルデーニャにある最古のサルトを訪問する。いまから楽しみだ。


  鯛のお頭


  伊賀の猪


  粉引き盃





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