白洲信哉 SHIRASU SHINYA OFFICIAL WEBSITE


平成24年3月31日(土)  |固定リンク

  蔵王権現と
イタリーレッド

 吉野にきている。二泊したのははじめてだ。国宝仁王門の修復勧進のため秘仏の御開帳と六田友弘さんの「OKUGAKE」の写真展が開かれる。僕は縁あってその展示を手伝うことになった。かねてから展示というものに疑問があった。美しいということと、すべてが見えることは別なことなのに、「みえること」それだけに偏ったことがおおすぎる。仏像というのは正面から拝むために作成されてものなのに、360度さらしものにされる。裏が好い。ということもあるが、どこをみせるか ということの意志がなさすぎる。

 でも写真を撮った人の思いというのは別にある。撮影者の見どころというものがあるからだ。でもそれと美しい ということは別なんだ。たぶん。今回は美術に理解がある田島さんと松田さんという先輩がいたからできたようなもので、所蔵家のおもいなんてものが入ったらまとまらなかった。思いは大事だけど強すぎると空回りする。それは何でも同じだと思う。

 あと場所をご提供頂いた金峯山寺のがたがた。考え方が違うこともあったけど、はじめての試みにご理解頂いた(と勝手に思っている)写真展といいながら金峯山寺の経塚遺物を多数展示したのだが、先人の祈りの世界というのはどれだけのことか、感じてもらえたら僕は嬉しい。それが国家の根幹だったんだ。いまの国家がどういう金をつかっているのか?千年先に僕らが感じられるものがないことだけは確かだろう。僕らは幸せだよ。それが感じられるんだから。そういうことをもっと考えて僕らは生きなきゃならないんじゃないかな。

 御開帳と写真展 吉野 金峯山寺蔵王堂にて六月七日まで。


  なんだこりゃ
なんの塊か?


  那智瀧と
水分


  田島さんと松田さん
常軌を逸しているふたり





平成24年3月20日(火)  |固定リンク

  第一室


 お彼岸の中日。すっかり春らしい陽気である。今日から6月10日まで上野の国立博物館で「ボストン美術館展」がはじまった。家庭画報6月号の取材で日曜日でかけていく。白洲展でお世話になった市川さんが入り口で「ボストンはごめんなさいです」という。どうやら現地の取材がうまく成就しなかったことを言っているようだったが、第一室にはいってあまりのレベルの高さに「どこでもみてもモノは同じだから」と自分でなぐさめる。国宝重文級の仏画が、額のなかにはいっている!新鮮でとてもいい。本堂や床の間にかけるのならやっぱり掛け軸のほうがいいし、保管に場所をとるということもあるだろうが、現代の生活にあった美術の楽しみかたもというのもあると思う。ぼくはかなり気に入った。

 次の部屋には海外にわたった二大絵巻が全編展示されている。しかもちょっと斜めにおいていて見易い。ここもかなりいい。僕は右から左へ自分が絵巻物のなかにいるような心地でなんでも行ったり来たりする。僧形の神像と目があった。これはきっと根本曼荼羅とおなじように東大寺に鎮座していたものだろう。

 3室の雪舟もすきなものだが、あまりのレベルの高さにかすんでしまう。となりの部屋の能装束と刀の部屋も相当いいし、刀の展示もちゃんと見識をもったかたが熱意をこめてやっているように感じた。ほんらいならゆっくり見ていたいのだが、撮影に呼び戻されなかなかそうもいかない。それに最後の江戸絵画 ここが一番のメインになるというのは知っていたが。宗達、光悦、等伯、、、。今回のために修復した蕭白でとどめをさすのであるが、言葉もでないよ。明治の混乱期 壮絶な時代だったんだろう。僕は海外に流出したことについて忸怩たる思いをしていたが、これだけのものをしっかりと管理保存し、公開している姿勢にものにとっては幸せなことだとも思う。この展覧会のために何年も前から展 示をひかえ、今後5年は展示することはしないという。日本では国宝重文は展示制限がつくのだが、当たり前だが指定品になっていないこともあって全会期展示される。このあたりもモノの状態をちゃんと把握して管理しているからだろう。

 ぜひこの機会にご覧いただきたいと思う。これから名古屋、九州、大阪と来年にかけて巡回予定だが、刀と能装束は東京だけです。ご注意を!また家庭画報6月号をお楽しみに!


  普賢延命菩薩
部分


  吉備大臣


  平治物語絵巻
部分


  僧形八幡神像


  雪舟
部分


  日本刀


  能装束


  蕭白
雲竜図
部分


 


 





平成24年3月9日(金)  |固定リンク

  朝田寺
蕭白

 ボストン美術館展に関連して曽我蕭白の足跡を訪ね歩く。三重県松阪市の朝田寺 掛け軸、屏風、杉戸絵の逸品を堪能す。唐獅子の双幅は本堂お厨子のわきに張り付けてあったというが、あれだけ大きな作を、暗い本堂でどうやって描いたのだろうか?獅子のバランスも絶妙である。いきだおれのところを助けられた、とか大酒を飲んで過ごした、とか風来坊で出鱈目に遊んでいる伝説がつきないがかなり上手い人だ。江戸絵画をあまり興味もってみては来なかったが、これから意識してみよう。ご住職の榎本様 ご親切にありがとうございました。毎年五月の連休のあたりに一般公開しています。

 平安初期、本尊のお地蔵様も見応えある(こんな書き方は不謹慎ですが)残された数々の仏像からも、このあたりで勢力をもったお寺だったことがわかる。本堂には天井から供養の衣服がつるされていて、地蔵盆の夜に一年分を火にくべる。関東ではあまり聞かない習慣だが、地域ごとにおさめる寺があって、伊勢との境界の真ん中のかたは両方お参りするという。ある意味二度三度お葬式をするようなことになるが、葬送儀礼をやりすぎるなんてことはないし、先祖供養は後世まで引き継がれなくてはならないと大事なことだと思う。古い土地には文化が残されているのだ。

 津から奈良へ いずれ免停になるのでレンタカーしたレガシーを運転してみたくなり、カメラマンの大泉さんとかわる。「外人さんの血がはいっているのですか?」と定番の問いかけはかれこそ相応しく(事実ご祖父はロシア皇帝と来日、サンクトペテルブルクにお墓があるという)ご兄弟ですか?と松阪のお寿司屋で言われたのには驚いた。東大寺で森本さんのお話を拝聴しながら、奈良時代なんていうのはその外人さんばかりだったじゃないか〜。伎楽面 どうみたってペルシャ。うらやましい時代だな。新しいミュージアム とってもいいです。

 奈良初めて!というアシスタントらと大仏殿へ。森本さんに一段高い場所にご案内いただく。氏とはツイッターで知り合いはじめてお会いする。いろんなお話をお聞きしたが、とくに奈良時代の古絵図をみながら、「僕が生きているうちに七重塔を復元したいですね」と言われたのが印象的だった。お水取りは1250年休みなく続けられているように、伝統に灯は次世代へ確実にバトンはわたっている。僕は塔が再建した姿を思い描く。湯屋に行くとお籠りされている牛山さんが、「来年はひと月一緒に籠ろうよ」と笑いながら言う。祭りはこうした裏方さんの個々の支えが結集し、ひとつのかたちになって続いている。お水取りは仏教行事なのだが、ところどころに宇佐から勧請された八幡様と連携し ている。大寺の大寺たる由縁がちょっとだけわかった気がした。

 最後に高砂 曽根天満宮で蕭白の絵馬をみせて頂く。播磨の人は「ラテン系なんです」と氏子のかた このあたりの石は古墳の石棺に使用されたという。短い滞在だったけど興味深い土地。つくづく日本はひろいと思う。詳しくは家庭画報六月号をお楽しみに!


  朝田寺
蕭白


  手先だけみても
描き方が百様


 


  蕭白
杉戸絵


 


  拝む位置が3m上がっただけで違うものをみているような気がする


 





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